以前,はてなに書いた文章の焼き直しになってしまった.
XX学会誌2007年5月号
監督:チャン・イーモウ(張芸謀)1998年製作, 中国・アメリカ合作
格差社会という言葉をよく耳にするようになりましたが,中国の格差は日本の比ではありません.とくに,農村部と都市部の差はこの映画に分かりやすく描かれており,「本当にどちらも同じ中国か?」と感じることでしょう.
舞台は,中国河北省の奥地の貧しい村の小学校です.ここには1年から4年まで28人が学んでいますが,小学生とはいえ貴重な働き手ですから,親の意向で学校を辞める生徒が後を絶ちません.村長も先生も,何とか生徒を減らさないように腐心しているものの,仕方がないのです.さて,先生が親の看病のため1ヶ月休暇を取ることになりましたが,何せ交通不便で代用教員が見つかりません.苦肉の策として,隣村に住む,小学校を卒業して間もない女の子(ミンジ,13歳)を雇うことになりました.1ヶ月の報酬は50元,その間に一人も生徒が減らなかったらさらに10元の報酬,という契約の元,ミンジと子どもたちの生活が始まりました.ミンジはお金をもらうことしか考えていないので,授業は教科書を写させるだけの手抜きです.間もなく,教え子の1人が町に行ってしまい行方不明になりました.さあ大変,給料が減らされる!とばかり,ミンジは教え子を探しに行かねばなりませんが,何せお金がないのです.
町に行くバス代を稼ぐため,ミンジと子どもたちは知恵を絞ります.金勘定がまさに生きた算数の授業となっていて,いくら足りないかを皆で一生懸命計算します.そこに,監視に来た村長が,「やるじゃないか.算数まで教えとる」とつぶやいて帰るシーンには笑わせられます.念願かなってお金が貯まり,バスで町まで行くミンジですが,それからも困難が待ち受けています.初めて見る町は故郷の村と違って,人の多いこと,騒がしいこと.教え子は見つかるのでしょうか.「先生」としてはやる気もなく,一切笑わず,涙も見せないミンジでしたが,教え子を必死に探すうちに何かが変わり始めます.
本稿では中国の小学校,それも奥地の分校を見てみましょう.ロケは河北省赤城県鎮寧堡(チェンニンパオ)村で行われたそうです.黄色い大地の中に教室が1つきりしかない小学校がぽつんと建っています.教室には,埃っぽい黒板に壊れかけの机が並んでいる他は何もありません.チョークは1日1本しか使えない,と先生はミンジに注文をつけています.また,柱に打ち付けた釘が日時計になっていて,授業の終了時刻を決めているのです.そんな中でも子どもたちは子どもらしく生き生きしていますが,やはり貧乏はつらいものです.教室の隣に2畳分くらいの広さの小部屋があり,教員はそこで寝起きをします.先生の宿舎を建てる余裕もないということです.小部屋にはベッドが1つあり,簡単な煮炊きはできるようですが,夜はロウソク1本の灯りしかなく薄暗いので眠るしかありません.何人かの生徒たちも教室で寝起きしています.筆者は最初,この子たちはミンジの世話をするためにいるのかと思いましたが,そうではなくて,家があまりに遠いため毎日通学するのは大変だからだと思われます.自動車などあるわけもなく,こうするしかないという事実にハッとさせられます.
ちなみにこの作品,出演の子どもたちは全員素人で,あたかもドキュメンタリーのようです.日常を追った地味なストーリーのはずなのに,こんなにハラハラするのはなぜなのでしょう?そして,最後のどんでん返しは・・・?現代中国に興味のある方もない方も,泣いて笑ってふと考える,そんな映画です.