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タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

水生生物の保全に係る水質環境基準の設定について

だいぶ懐かしい書類を改めて読んでみた。化審法の生態影響(有無)の考え方と、「水生生物の保全に係る水質環境基準設定」の考え方がどのくらい異なっているかを知るために。
忘れもしない2003年、この議論を受けて公共用水域における亜鉛の水質環境基準が提案されている。ここで「○○が死んで何が悪い」という発言が関係者から出たらしい、というエピソードが我が職場内を席巻し、当時駆け出しだった私の頭にも未だに深く刻み込まれている。
今回改めて検索してみたが、2003年の第一次報告から基本的な考え方があまり更新されていなくて、キャッチアップのトロい私にとっては助かったというか。
以下、引用部の太字部分は私による。第一次の委員会座長はS藤先生で、土木系出身で現実をわかってらっしゃるな、という書きぶりなのが趣深い。

(別紙) 水生生物の保全に係る水質環境基準の設定について(第一次報告)
平成 15 年 6 月中央環境審議会水環境部会水生生物保全環境基準専門委員会

http://www.env.go.jp/council/toshin/t094-h1504/houkoku_2.pdf

4.水生生物の保全に係る水質目標
(中略)
① 目指すべき保全の水準
水生生物の保全に係る水質目標では、公共用水域における水生生物の生息の確保という観点から世代交代が適切に行われるよう、水生生物の個体群レベルでの存続への影響を防止することが必要であることから、特に感受性の高い生物個体の保護までは考慮せず、集団の維持を可能とするレベルで設定するものとする。
また、目標値は、水質による水生生物への影響(リスク)を未然に防止する観点から環境水中の濃度レベルを導出するものとし、水生生物にとっての「最大許容濃度」や「受忍限度」といったものではなく、維持することが望ましい水準として設定することが適当である。
(2013年の第2次報告のほうが最新ということで、以下略)

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そして、今回は書くつもりのなかったこちらの報告書(答申というんですね)も、検索したら出てきたので感想と共に載せておく。
10年近くたってようやく第2次報告、このゆっくりとした歩みも意外だったが、第2次でノニルフェノールおよびLASが追加。(タイトルが違うから第一次、第二次がシリーズものかは微妙かとも思ったが、参考資料の類似度が高いので、おそらくシリーズなのだろう。)
第一次と、基本的考え方が大きくは変化していないことを確認。ただし、「長期的な存続をより積極的に促進する」という記述から見られるように、当初の色は少し薄れ少し保守的になっているようにも見える。全体のページ数が増えているのは追加された物質の評価プロセスやエビデンスが掲載されているため。

水生生物の保全に係る水質環境基準の項目追加等について(第2次報告)
平成 24 年 12 月中央環境審議会水環境部会水生生物保全環境基準専門委員会

https://www.env.go.jp/press/files/jp/21303.pdf

(3)水生生物保全に係る水質目標の設定の考え方
1)水質目標の設定に当たっての基本的考え方
(中略)
① 目指すべき保全の水準
水生生物の保全に係る水質目標は、公共用水域における水生生物の生息の確保という観点から世代交代が適切に行われるよう、水生生物の個体群の存続への影響を防止することを目指して設定するものである。そのため、特に感受性の高い生物個体の保護までは考慮せず、個体群の維持を可能とするレベルで設定するものとする。
また、目標値は、水質による水生生物への影響(リスク)を未然に防止する観点から環境水中の濃度レベルを導出するものとし、水生生物にとっての「最大許容濃度」(その限度まで汚染することもやむを得ないこととなる濃度、また、その限度を超えるならば直ちに水生生物にある程度以上の影響を及ぼす濃度)や「受忍限度」(この程度までの汚染は我慢しなければならないという限度)といったものではなく、維持することが望ましい水準として設定することが適当である。
さらに、環境基準等の水質目標は、水生生物の個体群を短期的に維持するための最低限度としてではなく、水生生物個体群の保護、ないし長期的な存続をより積極的に促進するという性格を持つべきである。なお、この数値を超える水域であっても、直ちに水生生物にある程度以上の影響を及ぼすといった性格をもつものではない。
(以下略)

不思議なことは、現状の生態影響評価手法を見る限り、上記のように書いてあるにもかかわらず目指すべき保全の水準が、個体群の維持ではなく、相変わらず個体(1匹)が死なないように設定されていることだ。素人が見ても結構おかしいと思うのだが、改善の圧力は働かないようだ。

ノニルフェノールの環境基準についてはこちら。水域の類型や水生生物の生息状況の適応性毎に基準値が決まっている。
www.env.go.jp