Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

青春

2023年/フランス=ルクセンブルク=オランダ/215分/字幕:磯尚太郎/配給:ムヴィオラ
監督:ワン・ビン 撮影:前田佳孝、シャン・シャオホイ、ソン・ヤン、リウ・シェンホイ、ディン・ビーハン、ワン・ビン
公式サイトの映画紹介から。

上海を中心に大河・長江の下流一帯に広がる、長江デルタ地域。ここだけで日本のGDPをはるかに上回る大経済地域だ。しかし、映画が描くのは、長江デルタの大企業でも大工場でもない。長江デルタの織里(しょくり)という町の衣料品工場で働く10 代後半から 20 代の若い世代の労働と日常だ。彼らの多くは農村部からやってきた出稼ぎ労働者。彼らのような若者も、実は長江デルタの経済を支えている一員であることを認める人はほとんどいない。世界は彼らに注目しない。しかし、ここには驚くほどにみずみずしい青春がある。自分がやるべき仕事は「世界から見えない人たちの生を記録すること」と語るワン・ビン監督の真骨頂にして、初の青春映画である。

Made in Chinaの服を見たら、この人たちに思いを馳せよう、と強く強く感じざるを得ない、圧倒的な説得力だった。ドキュメンタリーであることを忘れるくらい、画面の中の若者がドラマ的だった。観ながら何度も、これ台本あるんだっけ?と確認してしまった。
撮影期間が2014年から19年のため、ちょっと古い感じがするというか、今の中国の5年前は殆ど別の国のはずなので、現代を切り取っていると言い切れるかは定かではないものの、衝撃の映像が続いた。子ども服の大量生産現場ってこうなってるのかー、ポケットならポケット、ズボンならズボンを大量にミシン掛けするのってこうやってんのかーと口をあんぐり開けて思わず見入ってしまう、これまでに見たことのない種類の映像にまず仰天。映画評にもあったように、物凄くビートの利いたロック、という言葉がピッタリである。
労働環境の過酷なこと過酷なこと。きついノルマ、きったない工場。きったない寮は、これ本当に21世紀ですか、と目を疑う。建物は1980年代に建てられた国営企業のものを流用しているのだろう。バストイレが絶望的に汚い。4リットルは入ろうかという大きな魔法瓶からお湯を洗面器に出して、足湯をして、お風呂はそれでおしまい。清潔感ないなーと思う。食事は屋台で買ってきた堅焼きそばみたいな麵をすすっておしまい。全然美味そうじゃない。
それでも若者は楽しそうだ。カップルとなる男女。誕生日パーティーでケーキ投げ。子どもが待つ故郷への帰省を指折り数える男性。妊娠したら、迎えに来た母親があっさり中絶をほのめかす。喧嘩もある。一番の戦いどころは社長との賃上げ交渉。すべてが青春ドラマのようだ。
舞台は中国浙江省の、織里という街だが、各街路に1つ、いや、もっとか、縫製工場があるのでは?というくらいの物凄い密度。布地やミシンなどをこのエリアで回しているのかもしれない。GoogleMapの衛星画像で、それらしき「アパート」を見ることができる。18世紀イギリスによくあったような、児童労働が行われていたような施設を彷彿とさせる、過密度合いに度肝を抜かれる。