Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

の・ようなもの

森田芳光=監督,1981年日本
秋吉久美子伊藤克信
70年代最後くらいの,落語修行する若者たち,ソープ嬢落研の女子高生の素顔を描いた群像劇.もうなんとも言えないユルさ.肩の力が抜けた,それでいてスタイリッシュな映像である.主人公の落語家二つ目,志ん魚(しんとと).演じた伊藤克信さんの棒読みは最初「?」なんだけど,だんだんリアリティを感じてもう,ドキュメンタリー!?と思ってしまうくらいの迫力があった.伊藤さんは,今でいうとジャングルポケットの斎藤さんのような風貌で,確かにモテそう.
あの時代の若者って,まじめに,がむしゃらにやるのはカッコ悪いってのがあったと思う.「ケーハク」(←敢えてカタカナ)でわざと今の自分に向き合わない.それが葛藤になるのだけれど,その雰囲気がとてもとても共感できる形で描かれていた.
主人公は23歳.この映画,私が23歳の時に観たとしたら全然共感できなかったと思う.ソープ嬢と付き合ってて女子高生ともデート,気持ち悪っ!って思っただろう.今は違う感想で,落語家の卵たちの他愛のない会話が切ない.自分を直視するのを避けていて,その一方で内面にひりひりするものを抱えている・・・ああ切ない!でもこの映画はそこを軽く描いて進んでいくのよ.温かくもあり淡々していて,そこがオシャレ感を出しているのかなあ.
今見ると貴重な映像.まず,若いころの関根勤(当時はラビット関根),小堺一機,彼ら,若いころからいい顔してたな~としみじみ.リアルタイムで見てたけど,改めて見るのもよいものである.内海桂子内海好江も必見(キャラ変わってない(笑)).そして三遊亭楽太郎(今の円楽ね).当時から有名だったと思うけど,この映画でも売れっ子の若手落語家役で,マンモス団地の駐車場にてマイクを持って地元の店のコマーシャル(その団地の住人だけが聞けるラジオの生放送).秋吉久美子もとにかく可愛い.
東京下町の,人の気配がこれでもか!と感じられるあったかい風景も貴重映像と言えるだろう.当時の団地にはとにかく人がたくさんいた.ラジオカーが来ると,人が,それも主婦と子どもが,わんさかうじゃうじゃ出てくるの.私も団地に住んでいたから分かる.
墨田区あたりだろうか,商店街の装飾がにぎやかなこと.都電荒川線東武伊勢崎線堀切駅・・・この2つは今もそんなに変わってない.東武伊勢崎線始発が朝靄の中,浅草駅を出発.この風景も車両の型式が違うのを除けば,そんなに変わっていない.
女子高生の”彼女”の父親から落語をけちょんけちょんにけなされた志ん魚は,終電がなくなって堀切から鐘ヶ淵,隅田川を渡り浅草の下宿に歩いて帰る.そのロードムービー感たるや.私も東武伊勢崎線ユーザーだったり,曳舟で家庭教師していたこともあり,東京のこのあたりの雰囲気は大好きで,都内随一だと実感している.例の「うんこビル」に建て替わる前のアサヒビール工場とか「昔こうだったのか~」と風景に目を奪われる.そんな夜の街で一人,「道中づけ」をする志ん魚さん.道中づけとは,歩きながら見える風景を落語の口上よろしく描写していくこと.これが,志ん魚さん妙に上手いの.さっきお父様の前で披露した落語は何だったの,ってくらい上手いの.下町だから川が多くて橋を渡る回数も多いけど,橋の上を歩きながらの道中づけ,素晴らしい構図だった!そういえば,この切り取り方「3月のライオン」ぽい,もちろん時代は違うのだけれど.
最後は,先輩落語家の志ん米が真打昇進ということでお祝いの宴(水上ビアガーデン)のシーン.志ん米を演じた尾藤イサオがエンドロールでパッと微笑む,そんな劇中劇感も,ふわふわさせてくれた.
ああ,Viva東京!Viva若者!ってことで,しんとと,しんとと.