Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

リスク意思決定論

谷口武俊=著,「環境リスク管理のための人材育成」プログラム=編,大阪大学出版会
諸外国のリスクカバナンスの考え方が適切に要約されて,この分野の教科書としては包括的で,かなりのお得感アリ.
意思決定のアプローチには「規範的」と「記述的」の2つがある,ということは,REACH関係の論文を読んだ時に何度も出てきたけど,その概念はさっぱり理解できなかった.でも本書を読んで少しわかった.
規範的(normative)アプローチは「あるべき」論から意思決定の道筋を決めていく(だから「演繹」合理主義的という)のに対し,記述的(descriptive)アプローチは現実の具体的問題解決の中で意思決定の道筋を発見する(だから「経験」合理主義的という),という違いがあるようだ.私見だが,前者はEUが好むアプローチ,後者はアメリカのアプローチなのではないか.
normという単語,規範と訳されるが,その概念は社会の枠組みがきっちりしている欧州ならでは.そう思うとEUのREACHシステムやリスク評価手法が理想を掲げ,「こうあるべき」理念がはっきりしてる(でも現実的でないと批判されたり,現実に合わせるために裏技も駆使したりしてる)のも合点がいく.
規範的アプローチはある意味理想なのだけれど,H.サイモンによれば

”個人の判断には限界があって,何をなすべきかという規範的なプロセスよりも,実際のプロセスを説明することによって意思決定をよりよく理解できるので,より質の高い意思決定をするには,むしろ経験合理主義的な意思決定をよく理解することが重要だ”と述べています.

(本書p.28)
だそうな.だからどうすればよいという答えはないが,至極納得がいく.