Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

六価クロムの吸入発がんモデルは,閾値ありのほうが妥当である,という論文

Joseph T. Haney Jr., Neeraja Erraguntla, Robert L. Sielken Jr., Ciriaco Valdez-Flores (2012). Development of a cancer-based chronic inhalation reference value for hexavalent chromium based on a nonlinear-threshold carcinogenic assessment. Regulatory Toxicology and Pharmacology 64, 466-480
六価クロム-吸入の研究者界隈では,閾値ありと結構昔から言われていたこと(Crump et al. 2003, Park and Stayner 2006等)【のようだが議論が再燃したのか】。
・MOA(作用機序)から考えて閾値ありのほうが妥当だ。
6価が体内で3価に還元されるときに発がんを引き起こす中間体(GSH:グルタチオン,アスコルビン酸システインリボフラビンなどの還元型)が発生。
この還元型物質をどれだけ打ち消せるかはターゲット部位のcapacityによる。【つまり,可逆的だということ】
・これを踏まえて疫学(職業曝露)データの六価クロムの吸入と肺がん発生数を(再)解析すると,1mgCrVI/m3-yrあたりに閾値がある。因子は調整ずみ(出生コホートと喫煙)。この閾値は,有名なPainesvileコホートだけじゃない。ドイツのコホートでも同じような値になる【ここは面白い!】。
・これまでにオーソライズされてきた方法では,線形モデルを採用,ユニットリスクが1.2×10^-2,それで現行の指針値は0.8ng-CrVI/m3(=0.0008ug-CrVI/m3)と導出されていた。
・今回の方法では,閾値ありモデル,UFを30として,指針値が0.24ug-CrVI/m3と,これまでより300倍も大きくなるというもの。【これは結構大きな方向転換だよなあ。モメそう】
【ちょっとうがった見方をしてしまうと,CalEPAは一般的に保守的な有害性の見積もりをするし,伝統的に(?)六価クロムにはうるさい(これがUS EPAに引き継がれ,現行の指針値があるという感じ)。一方で今回の,閾値ありモデルの研究を先導したのがTexas州の団体なんだよね。カリフォルニアの人々が理想主義で,テキサスの人々が現実主義だと言うつもりはないけれど,どのモデルを採用するかは,やっぱり思想の問題と思わざるを得ない。】
おまけだけど,この論文誌RTPのIFが意外に低くて違和感。IFってほんと,あてになんないよなぁ。