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タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

食品リスク−BSEとモダニティ

神里達博=著,弘文堂
BSE牛海綿状脳症)を深く掘り下げた書.2001〜02年のBSE騒動があったわけだが,解決に至る道筋を考えるには,200年にわたる人類の知的な営みを知る必要があると痛感.当初未知だった現象の,輪郭が立ち上がってくる様子が丁寧にわかりやすく書いてあり,Exciting以外の何物でもなかった.とても面白く読んだ.
この本の真骨頂はBSE発見またはBSE研究の年代記部分にあるだろう.そういう意味では書名と内容はミスマッチで,帯の『「食」はなぜ「不安」になったのか』も今一つ的を射ていない(けなしているわけではありません!).
BSEのような社会問題を題材に,歴史の流れを追うことで科学の面白さと科学者の人間臭さを伝えている.このことはすごいことで,現代の,ややもすると週刊誌ネタかもしれない問題でも,研究の流れを追うことで真実に迫れると感じられたこと,この点にワクワクした.論文でもなく歴史学でもなく,さりとて小説でもないが,これが真の科学コミュニケーションだ.沢木耕太郎が「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」の解説で塩野のスタイルを評して「歴史でもなく,伝記でもなく,小説でもなく,しかしそのすべてである」(←細かい文言は違うかもしれないが)と言ったように,ワクワクの一言に尽きるのである.
このスタイルの本がどうしてもっと多く書かれないのだろう.カール・ポパーもトーマス・クーンもわかりやすく引用されていて(私は両者の著書を読んだことがあるのだけどどうにも理解できなかった),初めてストンと落ちた.
で,ついつい自分がこういう本を書く前提で読んでしまった.その目線での感想;
・見出しをざっと見て,何が書いてあるか全く推察できない(笑←良い意味です!!)
・文体はdifensiveすぎる.「〜には注意しなければならない」など,随所に過度に客観的な表現がちりばめられている.科哲の人の書き方なのか?
・マニアックな考察や記述が超絶面白かった.なので,もっと熱く書いてもらっても面白かっただろうな.