ジヨー・ベービ=監督、2021年インド(タミル語?)
ニミシャ・サジャヤン、スラージ・ヴェニャーラムード
インドの中産階級のリアル。この層は生で声を聴くことができないので興味深い。インド映画の題材は富裕層か貧困層のものに限定されていた印象があるが、いよいよ、こういう映画がインドから出てきましたね。
急激に西洋化が進んできた(と思っていた)インド中産階級でも、女性は結婚すると夫に仕え舅に仕え、息子に仕え、となる。舞台はケーララかな、南インドのヒンズー文化圏の地方都市。ときは21世紀。中産階級の男女がお見合いして結婚し、新婚家庭らしい甘々の雰囲気のシーンから始まる。料理番組か!というくらい料理の手順が映し出される台所のシーンも特徴的。それがですね、、、、
家族の”伝統”に対する圧がすごい。「うちの嫁には伝統を守ってもらう。新しいふるまいは許さん」という圧力が強くて驚いた。米は(炊飯器でなく)かまどで炊かないと、と舅が平気で口にする。
ほかも、観ていて辛くなるシーンが沢山。
生理のときは家事(特に料理)をしなくて良いが隔離部屋に閉じこもって外部との接触を絶たなければならない。
職業選択の自由もなく、教師として働きたく求人面接に応募したことがバレるとひどく叱られる。夫は「いつか大丈夫になるからそれまで我慢して家にいろ」というが結局は古い因習に囚われた父親(舅)の言うことを聞いてしまうのでいつまで経っても変わらない。妻の機嫌を自分の論理で無理やり直させ(機嫌は当然直ってない)、また自分勝手に夜の生活を迫る夫。
主人公の女性(新妻)の実家は南インドの中産階級で新しい生活様式であるにせよ、弟には一切食事を作らせない。
フェイスブックで外の情報がバンバン入ってきても、現実には女性の自由はない。
こんな生活、こんな社会はもう嫌だ!我慢できない!と家を出た主人公。後味は良くないが、大変興味深かった。
家を出る直前に夫と舅にぶちまけたものは、なんとなんと溜まりに溜まった台所排水。このマグマのような怨念、ホラー映画よりも怖かったかもしれない。