Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

オン・ザ・ロード 不屈の男、金大中

ミン・ファンギ=監督、2024年韓国
キム・デジュン
さて、何かと話題の多い韓国。ユン大統領の弾劾裁判はどうなる?罷免されるのか?大統領代行の首相にもなにやら不穏な空気が?
このようにネタには事欠かないが、国会議員や民衆の持つエネルギーはとにかくすごい。いったいどこからエネルギー湧いてくるのかは頗る興味があるところである。
さて、この映画は私が当然見るべきドキュメンタリーだ。私は、何を隠そう1973年8月の、キム・デジュン氏が東京・パレスホテルで忽然と姿を消した日の生まれである。母が、私が産まれた日のことを回顧するときに、新生児としての私の記憶よりも、キム・デジュンの拉致のニュースをテレビでさんざんやっていてね、という話にいつも(誕生日には毎年毎年)なってしまうのだった。「あんたの時は安産だったから体が良く休まって、やることないからテレビ見てたのよ~」ですって。はいはい。ということで私が小さいころから慣れ親しんできた(?)キム・デジュン氏に自然と興味を持ってしまったのも無理はない。
また、1998年ごろから韓国映画を観始めた私の率直な感想は、「20世紀の韓国映画は、ありえないくらいつまらなかった。ところが、2001年ごろから突然面白くなった。」だ。これは、キム・デジュン大統領の文化振興策のたまものと信じている。大統領就任後に日本コンテンツ輸入を解禁したのは特筆すべきで、韓国の映画制作現場は、これまで観ることはおろか言及することを固く禁じられていた日本映画を浴びるように見ていたと思う。(かなり余談だが、「冬のソナタ」は、岩井俊二監督の「Love Letter」を制作サイドが見ていなかったら絶対にあんなに面白くならないよ、構図など相当研究した跡があるもん。)イチ韓国映画ファンの立場でも、キム・デジュン氏はやっぱり偉大なのであった。
本稿、前置きばかりで終わりそうだ。しかし、ぜひ、このドキュメンタリー、すべての人に見てほしい。すごいよ。キム・デジュンの人生が波乱万丈すぎる。何度も殺されかけ、死刑宣告を受け、なのにそのたびに生還。アクション映画の主人公よりもドラマチックだ。その点もすごいが、民衆からの愛され方がさらにインパクト大。光州駅に降り立った時の、キム・デジュンの顔。民衆からの熱狂的な支持。光州事件を経て、民主化を苦労して勝ち取った、韓国民衆の矜持、熱い心に触れるだけでも、このドキュメンタリーを観る甲斐があるというものである。韓国社会の持つドラマ性に、民衆のエネルギーがうまくマッチする。いや、因果が逆か。エネルギーを持つ民衆がドラマを生み出すといったほうが正しいのか(でもそれなら普通だな。韓国の民衆を見ていると普通じゃない何か狂気のようなものを感じるんだよな、休戦中であることからくる独特な緊張感?)。
ドキュメンタリーだから、キム・デジュン氏への直接のインタビューと、近しい人へのインタビューで構成されている。多少、教科書的というか、お勉強っぽい内容のところもある。しかし、当時の新聞やニュース映像、記録動画などがてんこ盛りで、米国で活動していた時の映像も、見ごたえがある。1960年代の映像が、貧しかった韓国を正直に映し出していて、これだけで泣けるのである。
韓国から当分目が離せなさそうだ。映画「ソウルの春」もぜひ観ないと。ああ忙しい忙しい。