クロエ・ジャオ=監督、2020年米国サーチライトピクチャーズ
アカデミー賞受賞作だから、という下心があったことは否定できないが、観に行くことにした。ドキュメンタリー風のドラマということで是枝裕和さんテイストであるということを聞いていたため。
家がなく、車を改造して、いわゆるキャンピングカーで移動し、働く生活。「ホームレスではない、ハウスレスよ。」とシンプルに主人公が語る。
貧乏なわけではない。SNSで同じ境遇の友人たちとつながっている。肉親もいて天涯孤独ではない。しかし、車で移動する生活を選ぶ。友人たちや姉が「ここで一緒に住もう」と言ってくれる。それをやんわりと断って、明日も主人公は移動する。尊厳をもって。
これを新しい生き方とみるか、アメリカンドリームの復活とみるか。切ないとみるか。
家を失った不運をかみしめつつ、亡くした配偶者の思い出とともに生きる。この点はニュートラルに描かれていて、こういうのもアリだよなと素直に思った。社会から見捨てられた、というわけでもなく、どちらかというと心穏やかなヒッピー。仲間たちが集まっているシーンは60年代をほうふつとさせた。
Amazonのクリスマス商戦の配送センターでの労働の様子が、なかなかリアル。車生活の人専用の駐車場も用意されているなど福利厚生がよく、きついが給料が良いと言っていたので、これもアリかもしれない。
ただ、正直に言うと、実利的な部分がつらかった。車の生活、足を伸ばして寝られない。冬は寒い。車は故障すると、修理屋まで行くのに誰かの助けを借りなければならない。自分の体が健康だからできるので、病気になったらどうしようと不安になった。もっとも、がんが転移してもノマド生活している人がいたので、その時はその時なのかもしれない。出演者の大半が高齢者だったのも、希望なのか絶望なのかよくわからない。私がノマド生活、というか二拠点生活をしているので良い点も悪い点も見えているから、共感できるとは言い難い。これがアカデミー賞脚本賞か・・・アメリカも変わったよなぁ。とちょっと思った。
亡き夫とキャンピング仕様に作り上げた改造車は、主人公の思い出が詰まっていて「ボロ」だが手放せないものだった。夫の趣味である釣りの道具が入れられる収納があり、それを改造して引き出しにし、コンロをしまって、トイレも作って。髪は町中のモーテル(?)で自分で切る。服は質素だがおしゃれだった。
アメリカの大自然(バッドランズ国立公園)でのバイト。良い景色に囲まれながらキャンパーたちのサポートをする仕事がある。
車生活の食生活は極めて質素。車中にコンロが一つ。キャンベルのスープ缶を開け、温める。それに引き換え、友人の家にお呼ばれしたときのサンクスギビングのディナーの暖かいこと。ワイングラスで乾杯することが、こんなに暖かいんだと思ってしまった。
アメリカ中西部だから、キャンピングカーをどこでも停めてよいんだと思っていたけど、意外に車中泊お断りって言われるのね。タイヤがパンクしたときのリスクも高い。自分で車を修理するスキル。う~ん。この生活を許容するかは、完全に個人の好みの領域だよね。