Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

下町の太陽

山田洋次=監督,1963年日本(松竹)
山田洋次さんの監督第二作目,実質的な長編では第一作目と位置付けられている作品.
当時の東京の風景が映っているので,ドキュメンタリーとしても相当面白い.看板には「血液銀行」・・・なにそれ?とか.
主人公の町子(倍賞千恵子)は二十歳すぎだろうか,下町の化粧品工場で働いている.石鹸がベルトコンベアに乗って延々と流れてくる光景.この検品と箱詰めが仕事である.昼休みは同僚とバレーボールや卓球で汗を流す.こういう女工さんの生活,噂にはよく聞くが映像化されていると新鮮である.
町子の家は京成曳舟付近にあり,そこから都電で工場に通う.その曳舟の風景がまたすごくて,路地が全く舗装されていないので雨が降るとドロドロになる.そんな細い道に車が容赦なく入り込んでくるのである.近所の方の息子さんが交通事故で亡くなっているというエピソードも.町子の彼氏も同じ工場の事務員なのだが,都心でデートして帰り道に「隅田川を渡ると空が暗くなる」とびっくりの暴言を.当時は工場の排ガスで本当に空が汚れていたのかもしれないが,町子にも失礼だし,墨田区民が聞いたら激怒しそうだ.
町子の同僚が結婚するエピソードも面白い.お相手は「サラリーマン」.ホワイトカラー男性と結婚し新居は光が丘団地なら順風満帆,つまり「勝ち組」だったのだ.墨田区から練馬区に移り住むことがステータス上昇のしるしって,ツッコミどころ満載だが,何せ当時は団地に住むのが憧れ.公団住宅の倍率が100倍とかですからね.なのに新妻になった同僚の生活はつまらなそうだ・・・.
倍賞千恵子が聡明で美しい女性をさわやかに演じていて,そこはイイね!と思った.とはいえ下町の貧乏生活なので苦労人キャラ.いつも怒っているし,「女だからってどうして?」などといつも訝しがっている.このあたりは,まるで成瀬巳喜男の映画の主人公みたいだった.山田洋次の映画なので,成瀬映画よりセリフの人情味が際立っているという違いはある.寅さんシリーズはこうやって出てきたんだねぇ,おまいさん,と思わずつぶやきたくなる.