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タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

ハチはなぜ大量死したのか

ローワン・ジェイコブセン=著, 中里 京子=翻訳, 福岡 伸一=解説,文春文庫
ネオニコチノイドの勉強会用.EUの食品安全を司る官庁,EFSAが書いているネオニコチノイド系農薬のリスク評価書を読むことになり,適切な訳語があれば真似したいなあと思って手にとった本.
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フランスやドイツなどではネオニコチノイド系農薬の使用規制がEUに先んじて踏み切られた.EUはその後(2013年5月),イミダクロプリド,チアメトキサム,クロチアニジンの3種について二年間の時限付き使用禁止を決定した.この決定の根拠となったリスク評価であるが,じつはミツバチに対するリスク評価方法は策定途上であり,ちょっと安全側にすぎる,というのが個人的な印象である.EU−ECHAは急性影響の結果のみを根拠に,「必要な暴露マージンを取れない」という理由で規制を決定した.(必要な暴露マージンも,評価書を読んだ限りでは【この評価書が出された2013年1月時点では,ということかもしれないが】,議論し尽くされて選ばれている様子ではない.)さらに,話題になっているCCD(Colonny Collapse Disorder,蜂群崩壊症候群)との因果関係は「更なる研究が必要」という結論になっている.
上記のEUの決定から遅れること1ヶ月,EFSAのミツバチに関するリスク評価ガイダンス"EFSA Guidance Document on the risk assessment of plant protection products on bees (Apis mellifera, Bombus spp. and solitary bees)"が公表された.
・詳しい評価方法はAppendixを見ないとわからない.AcuteとChronicの毒性試験はプロトコルがAppendix Oに載っている.EUの評価書よりはわかりやすく書いてある.
・Chapter9には推奨されるTrigger valueが載っている.HQの定義がHQ = application rate (in g a.s./ha)/toxicity (μg a.s./bee)であり,HQの場合1より大きい数字(42とか7とか).それに対し,ETR(=Ratio of exposure/toxicity)は1より小さいのはどうして?(→あとで調べる)
・Sublethalは,”the Working Group (WG) revisited this issue and considered that currently it was not possible to consider sublethal effects in the risk assessment schemes; the reasons for this are as follows:(この後理由が続く)”とあり,結局この文書では評価方法が示されない.むむむ…
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さて,この本.
ミツバチ個体群に及ぼす影響は,本当はどのくらい大きいの?ということが手っ取り早くわかるかと思って読み進めたが甘かった.いまのところCCDがなぜ起きるのかは不明である.ハチの社会は思っていたより高度で,個体群の崩壊をシミュレーションするのも難しそうだ.当初,評価書を読んだだけのときは「そういうシミュレーション研究がこれから進んでモデルで再現できるようになる!」と思っていたけど,この本を読むと,いや,そうじゃないな,と思わされた.
で,気をつけなくてはいけないことは,日本になるとまた話が別かもしれないということ.
6月に遊びに行った,友人が経営しているさくらんぼ園では,マルハナバチという日本の固有種を飼っていた.日本ではセイヨウミツバチも飼っているが,日本固有の種も多いと聞く.CCDはセイヨウミツバチに特徴的だという話も聞く.
結論がどうこう言えるレベルではないが,あちらではこうだから,ということで過度の一般化は避けたいと思う次第.