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タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

韓国大統領列伝 権力者の栄華と転落

池東旭=著,中公新書

読もうと思った動機は,1つ目は韓国映画を観ていて(「ラブストーリー」とか),「韓国の日常はあまりにも戦争色が強いなあ」と感じることが何度かあって(もちろん「休戦中」であることが一番の理由だがそれにしてもあまりにも).不思議に思っていたのだけれど,それはちょっと前まで軍人が大統領をやっていたからかも,と思いついたから.日本じゃ考えられないよね.2つ目は,金大中さんに興味があったから.何を隠そう,私は金大中さんが東京のホテルから誘拐されて大騒ぎになった日に産まれた.で,小さい時から「アンタの産まれた日に金大中事件があってね・・・」と何十回も母から聞かされてきて,その名前には馴染みがあった.そんな人が大統領になってるってどういうこと?ちょっと興味あるよね?!そしてちきりんさんがオススメだったことも後押し.この手の本といえばハードカバーの研究書くらいしか思いつかないので,誰かのレビューがあると自分が読む気になる本を正しく選択できる,というか.
いやあ,実に面白かった.金大中だけでなく,朴正ヒ,全斗煥,金泳三も一級のドラマになるね.暗殺されたり,仕返しをしたり,孤独で人間臭くて,ある種哀れというか.
しかし金権政治のすごさ,もうなにがなんだかめちゃくちゃ.韓国の大統領は超・超権力者だから大量のカネが流れる.金額も田中角栄ロッキード事件なんてもんじゃない.大統領をやめたら途端に過去の悪事を暴露されて逮捕.それは報復措置の色合いが濃いが,なんてエグいのだろうか.しかも全斗煥献金されたカネを国庫に返納してるし.日本の場合,首相をやめたH山さんとかがノラクラ発言してるけど,日本って実にお気楽な国だなあと良くも悪くもため息が出るよ.
大統領と同郷の人が高い地位につけるというアジア的というか田舎くさいことも,つい10年前までは普通だったのか.そう思うと,とにかく韓国の民主化は急激だったということは言えて,それは私が韓国映画から受けた印象とかなり一致している.大体,金泳三時代(1993年)に軍閥が完全に解体したなんて,たった20年前じゃん!「ミ〜ンチュ(民主),ミ〜ンチュ,キ〜ムヨンサン」という金泳三のテーマソングがあったと記憶しているんだけど,よく考えてみると「民主」を叫ばなければいけないほど民主化していなかったということなんだね.
そして,1998年制作の映画「八月のクリスマス」(主演:ハン・ソッキュ)が全くもって未成熟な感じだった(マーケティングをガン無視でつまらなかった)のに対し,2002年の「猟奇的な彼女」は大衆映画としてよくできていて(実際面白かったし),なんで4年でここまで変わるの?と思った.その理由はよくわかった.民主化してからの年数が倍違うからだ.
1990年代後半に韓国人留学生から見せてもらった韓国の新聞が,日本の新聞?!と思うほど何から何までそっくりだったことも理由がわかった.言論統制で,韓国のマスメディアで長くやってきた人が粛清されてしまい,一から作るとなった時に,日本のをそっくり真似たに違いない,きっとそうだ.
笑えたエピソード:金泳三と金大中はライバル同士だったのだけれど,金泳三は楽天家で勉強しなかったのに対し,金大中は勉強家で獄中でも本を読み,著書多数だった.そのことについて「金泳三の読んだ本と金大中の書いた本の,数なら同じ」っていうジョークがあるんだって!韓国のジョークはキツいww
この本,筆致が淡々としていて硬質で文が短くて,日本語としてはそんなに格調ないがかえって凄みがある記述だった.韓国人の熱い心が十分に伝わってきた.