Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

ALARAの原則って,何だ?

食品安全の文脈では「ALARAの原則」は,「合理的に達成可能な範囲でできる限り低く食品中の汚染物質の濃度を設定すること」とされている.
いっつも疑問に思うんだけど,「合理的に達成可能な範囲」って,誰がどのように決めるのでしょう?判断基準が明確にされているのを見たことがない.

以下はもっとマニアックな,カドミウムの話.

第64回FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)結果の概要
「Cadmium-impact assessment of different maximum limits」(仮訳)
http://www.maff.go.jp/cd/html/B30.htm
のなかで,どうしても分からないこと.

「今回の評価では、異なる最大基準値による各品目のカドミウム濃度の分布(最大基準値を超えるデータを除外することによる平均値への影響と最大基準値を超える試料の割合)と、各品目毎のカドミウム摂取量(最大基準値のシナリオ毎のカドミウム濃度の平均値がカドミウム摂取量に及ぼす影響)に及ぼす潜在的な影響を考察した。」

「JECFAは、異なる最大基準値によるカドミウムの総摂取量への影響は極めて小さいと結論した。提案されている最大基準値は、平均カドミウム摂取量をPTWIに対する割合で約1%程度減少させた。1段階低い最大基準値は最大でPTWIに対する割合で6%減少させた(小麦、ばれいしょ)。提案されている最大基準値では、カキの場合、最大で9%が違反となる。1段階低い最大基準値では、軟体動物、ばれいしょ、その他野菜では、約25%のものが違反となる。

  最大基準値の設定により、汚染物質の濃度分布の末端部が除外されることによる汚染物質の摂取量への影響は、最大基準値によってかなりの割合が除外されない限り小さい。JECFAは、以前の評価では、カドミウム総摂取量がPTWI 7 μg/kg-bw/wkの40〜60%しかなかったことから、コーデックスの最大基準値案を適用したことによる1〜6%の変化は、人の健康上のリスクの観点から影響はほとんどないとした。」

ここでも疑問に思う.
「最大基準値の設定により、汚染物質の濃度分布の末端部が除外されることによる汚染物質の摂取量への影響は、(中略)小さい。」
という事実は示しているものの,それに対してどう考えるか,を明示的に書いていないのは,わざとなのだろうか?
影響を及ぼさないということは,すなわち,高濃度の汚染の食品を取り除いても除かなくても関係ない.ということである.だとしたら,この基準値を決めて従うということはどういう意味があるのだろうか?

1つの答えとしては,「明らかに高い濃度の食品を排除する」というものである.でも,自己矛盾っぽい.なぜなら,
http://www.maff.go.jp/syoku_anzen/20031119/giji.pdf
には,これらの食品は「適切な技術や手段の適用によって,汚染しないように生産されていることを前提」
とあることから判断して,「明らかに高い濃度」の食品ははじめから含まれていないのでは?と思うからだ.「非意図的に食品中の汚染濃度が高くなる」のは防げない.ということは,この基準値の持つ意味は?現状を大きく変えないことが基準値設定の根拠となっていると読めるように思う.それって,基準値を設定して安心するため?

もうひとつ疑問.

「生産や取引の不必要な中断を避けるため,食品中の汚染物質の通常の濃度範囲よりもやや高いレベルに設定」
という文面もある.この,「やや」の部分.気になるわ〜.上記の「合理的に達成可能な範囲」の判断にも似て,明確な基準などなく,expert judgementなのだろう.

・・・う〜ん,全体にすっきりしない.これが「科学的な手続き」であるのだろうか?