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タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

下山事件(シモヤマ・ケース)

森達也=著、新潮文庫
いやー面白かった。こういうの大好き。
下山事件の全容に迫るアプローチというよりは、下山事件取材の顛末、もっと大きな括りでは、(取材の)戦いに負けていく様子が克明に描かれている。サクセスストーリーは数あれど、負けていくストーリーは本当に貴重で、モノローグ部分も読ませる。ドロドロしているし、森達也は小さい奴だと思わせるような弱気な記述もあって、読後感は全くさわやかではないが、なぜか希望が持てる。一番になれなくても人生は十分生きるに値する、と。
ジャーナリスト人生を賭けるに「下山事件」は十分な題材というのは伝わってきた。下山病に「感染」という表現が奇妙なユーモアを醸し出していて好き。私が下山事件という名前を聞いたのは、学校上がる前が初めてかな。暮しの手帖の第一世紀、何号だったかに見開きで、強烈な印象の白黒写真があった。この写真は三鷹事件のもの(SLが転覆している)だったが、下山事件三鷹事件が、昭和24(1949)年の大事故としてセットで記憶に焼き付けられたのだった。

あまり知らなかった言葉が時々出てきて、調べながら読んだ。
スタンピード現象(p.141):一方向への傾斜が全体の暴走を加速する傾向のこと。メディアは市場原理から逃れられないものの、この傾向が日本は特に強い、とは森の見立て。日本も強いけど、韓国ももっと強いように思うがどうだろうか。
三国人(さんごくじん):当事国以外の国籍の人、第三国の人、を指す言葉。第二次世界大戦後の連合国占領下で朝鮮人、中国人(特に台湾人)を指す。石原慎太郎が用いたのとは、若干ニュアンスが異なっているような気がする。
フィクサーfixer:黒幕のこと。特に、政治、企業の営利活動における意思決定の際に、正規の手続きを経ずして決定に対して影響を与える手段やじみゃくを持つ人物を指す。下山事件では児玉誉士夫、この人有名な右翼なのね。戦後の日本はエネルギーもあって、アナーキーで、今の日本とまるで違う。改革開放が突然やってきた90年代の中国大陸みたいなハチャメチャさがある。
手紙文末に「不一」をつける。男性が書くことが多い、「草々」の堅いバージョンということね。
あと、松本善明が出てきた。この人、いわさきちひろの夫!!

結局、下山事件のキーパーソンは殺された下山の跡を継いで国鉄総裁になる、加賀山之雄ということなんだろうか。背景としては、当時国鉄には、対立する2つの労組があった。共産党系の国労国鉄労働組合)と国労から分かれた(?)民同(民主化同盟)。民同は当時吹き荒れていたレッド・パージの勢いに乗る、「赤化を防ぐ」という名のもと大きくなっていたとすれば当然、GHQの支援もあっただろう。加賀山之雄としてはGHQに阿るというか、共産党のイメージを落とすことが必要だった。だから、解雇で恨みを持っていた国労メンバーからの突き上げの心労から、下山は自殺と見せかけたかった。結局は、自殺ではないことが警察やジャーナリストの追求により明らかになっていくのだが。自殺でも他殺でも、とにかく下山は加賀山にとっては消したい人だったのかと。

そして!現代の東京とつながるのが、ライカビル。中央区日本橋室町3-3-1。ひゃー!金の延べ棒とか隠してあった、大きな金庫があるとか、ワクワクだ。
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松本清張「日本の黒い霧」読まねば。