エドワード・ヤン(楊徳昌)=監督、1994年台湾
原題:獨立時代、原題(英):A Confucian Confusion
陳湘琪(チェン・シャンチー)、倪淑君(ニー・シューチン)、王維明(ワン・ウェイミン)、王柏森(ワン・ポーセン)
というわけ高まるエドワード・ヤンフィーバー!!これも最高だった。学生時代お金がなくて見れなくて、ずっとペンディングだった作品だったので、観られて大満足というのもある。劇場でパンフ売っていたので、感情が高まって珍しく買ってしまった。
「ヤンヤン~」よりは登場人物が少なくて、分かりやすかった。あと、わずか2日半の出来事を2時間のフィルムに濃縮、主人公たちと同じスピード感で生きている感覚に乗ることができた。人も街も揺らぐ。だから、台北がピッタリなんだよな。私の感想だが、東京はこの当時落ち着いていて揺らぎは少ない。東京の揺らぎは、「台北ストーリー」に描かれている1984-85年あたりがマックスなのではないか。
ストーリーは「急速に発展する台北を舞台に、2組のカップルを軸に10人の男女の人間関係を描く青春群像劇」。言ってしまえばそれまでだが、テクニックが圧倒的で、エドワード・ヤンは天才というほかない。特に印象に残ったのは以下の3点かな。
・「牯嶺街少年殺人事件」「ヤンヤン~」「台北ストーリー」と同じく、逆光も含めた光の加減が絶妙。ずっと見ていられる。特に青と緑の色調。
・引きの構図(抱擁のシーンは必ず遠くから、とか)と、アングルを切った覗き見感。あと、窓の使い方。ビルの上階から窓の外を眺める構図が良い。スクリーンの中のスクリーンになっていて、映し出される台北のビル群が、なんとも絵になる。
・エレベーター内、エレベーターホールの使い方の見事さ。主人公の気持ち切り替えや場面転換に見事に活用されている。
濱口竜介さんが惚れ込んだのもわかる。車の中(運転席の前面にカメラを取り付けて、運転席と助手席の男女の会話を撮る)も濱口竜介監督に受け継がれているね。
若い男女が自分の生き方を模索し、時に親友や婚約者と激しい口論をする。急速に変わりゆく台湾人の生き様、しかもその最先端。自分の弱さを認め、相手を信頼し愛せるのか。単なる恋愛コメディのようでいて、建国の成り立ちからして特殊な「台湾」の行く末を暗示しているかようだ。早すぎた傑作と言われるゆえんはこの辺にあるのではないか。原題が獨立時代。これは中国からの独立を意味しているのか。戒厳令が解除されてからまだ10年経っていない台湾で、この危ない原題は何を意味するのだろう。一方で英語の原題は「A Confucian Confusion」、意味は「儒教の混乱」、意味を聞いて納得!韻の踏み方もオシャレだ。恥ずかしながら「confucian」という単語は辞書を引いてしまったが。
繰り返しになるが、この映画、男女がこれでもかというほど、激しい感情で早口でしゃべり続けるんだよね。新しい価値観のなか、カップルの感情の揺らぎや起伏が、あからさまに描かれているわけじゃないのに、なぜか痛いほどわかる。観終わってふと思ったのが「東京ラブストーリー」にちょっぴり似ている、ということ。優等生キャラのチチが好き。あんなに仕事できるのに会社辞めちゃうんだ。その辺、東ラブ!と思った。
パンフレットは濱口竜介さんと温又柔さんが寄稿している。これらがまた、明晰でハタと膝を打つような文章で、これもおすすめ。