Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

メイド・イン・バングラデシュ

ルバイヤット・ホセイン=監督、2019年フランス・バングラデシュデンマークポルトガル=合作
岩波ホール閉館、ついに、ということで。岩波ホールは20世紀(っていうか学生時代)に、マイナーなドイツ映画、アンジェイ・ワイダ特集、宋家の三姉妹、などで数回行った。
役目を終えた、というのが本当のところだよね。いろんなミニシアターに行ってみて心からそう思う。開館が1960年代で、当時としては相当先進的だったのは認めるし、建物の年季の入り方がそんじょそこらのシアターとは違う風格があり、文化のかほりが。この間久しぶりに行ってみて、あの重たくて分厚いコンクリートの柱に触れ、昭和に共通する建物よね~と、なぜか子どもの頃を思い出した。今の建物はスタイリッシュだが、要するに線が細くてチャチいのよ。
そのような岩波ホール。もちろんリスペクトしているが、敢えて言う。椅子がだめ。腰が痛くなる。客席が段々になっていないので、前の人が気になる(首を頑張って上げる必要あり)。スクリーンが遠すぎなので(舞台の後ろにある!)画面が暗かったり、画質の粗い作品観るのがツラい。映画館じゃないのよね。
閉館じゃなく改装という手もあったと思うが、資金繰り、苦しかったんだろうなぁ。いままでありがとうございました。

さて、こちら。あらすじは公式サイトより。

23歳のシムは、首都ダッカの衣料品工場で働いている。女性たちがせわしなくミシンを踏み続ける中、工場では男性幹部が威張り散らし、泊りがけも余儀なくされるほど環境は厳しく、給料は未払いが続いていた。家では夫が働かず、シムが働いて得たお金をアテにする毎日。そんなある日、労働者権利団体のナシマ・アパに声をかけられたシムは、同僚たちを説得し、労働組合の結成を目指して立ち上がる。仲間たちと労働法を学び、署名を集め組合結成に向け奔走するが、工場幹部からの脅し、夫や同僚の反対など、さまざまな困難が待っていた…。

1997年にダッカに行って、見て、感じた風景と、大きく変わっていないので、まずそこに驚いた。変わった点は、停電がないことと、人々が携帯電話を手にしていることくらいかな。オフィスや役所に全くパソコンがなくて書類の山ばかり、は流石にフィクションだよね。
とはいえ、相変わらず低い女性の地位。社会的にも、家庭内でも地位が低くて、自分で意思決定してはいけない。21世紀なのにそんな世界があるのか。
○APなどのグローバル企業が運営している下請け衣料品工場で、服を安価で大量に作っている、縫製女工さんたちの話。一人一人エネルギーがあって聡明。しかし、労働組合を作るというような社会的な動きは尽く潰される。でも最後に希望があった。本当の結末はわからないけれど、そう信じたい。
主人公の女性、シムの夫は、一見、イスラムの教え「女性を守る」に非常に忠実で、妻に愛情を注ぎ、思いやっているように見えるものの、妻が自分の意見を持つことに反対する。言うことを聞かないと手を出す。これ、立派なDV夫。バングラデシュは、女性活用ランキングが日本より高い、しかし、男女の差というよりは階級の差が日本人が想像するより非常に大きいこと。階級が上であれば男女とも活躍するが、階級が下だと女性が非常に弱い。このように、男女格差の問題が階級問題と強く結びついているのが日本と違う。「貧困層、女性」が生きるのは本当に困難ばかり。そんなシム(大学は出ていないが労働法を読みこなすなど、知的レベルが高い)が自分の力で立ち上がっていくストーリーは、痛快であった。
彼女たちの着ているサルワール・カミューズやサリーがあまり色鮮やかなのに対し、彼女たちの人生がcolourfulになるのはいつの日なのだろうか。
私も衣料品を手にしたら、その工程に想いを馳せ、シムを思い出そう(正直言うと、コロナになって2年、自分の服は下着以外一切買っていないので○APなどにも入店していないのだが)。
以下、映画を観た後のトークショーのメモ。いや~、問題は根深いっす。

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2013年4月24日8:45、ダッカのシャバール地区にあるラナプラザ崩落事故が起きた。1100人以上死亡で、ボパール以来の最悪の産業事故だった。当局は迅速な対応を取り、建築上の安全を強化する方針を出したが、これは義務ではなかった。費用負担は現地企業に任され、多国籍企業は一切責任を取らないスタイル。現地の小企業は体力がなく対策できない。
変化のきっかけは、消費者の目や、SDGs意識が鍵。一方で、過度に低価格を強いるプレッシャー(多国籍企業からの)という、非対称な権力関係がある限り解決は難しい。
バングラデシュの労働法改定(2006、2013)で労働組合が結成しやすくなっているのは確か。しかし、使用者による妨害はある、例えば身分証を発行しない、解雇通告など。手続きをわざわざ煩雑にして、しかも進捗が遅い。インフォーマルな経済圏に属する労働者(地方から暴力を逃れてダッカに流れ込んだ女性など)は、組合結成すらできない。
多国籍企業も二の足を踏みがちであり、最近は別のスタイルがでてきた。「participation committee」という、労働者代表vs工場幹部。組合ではないが、労働者代表が定期的に幹部と話をすることで組合の代わりをする。工場幹部側に「暴徒化しやすい」という組合の誤ったイメージが根強いため。

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