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タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

昭和50年度会計検査院決算検査報告「カドミウムによる環境汚染に係る米の処理について」

カドミウム汚染米の買い上げに使われた予算。
http://report.jbaudit.go.jp/org/s50/1975-s50-0065-0.htm
URLはこちら↑なのだが、記述に時代を感じられて趣深いので全文をコピーしておく。
玄米中Cd濃度の事実上の基準値となっている0.4ppm(回収措置発令)は、「消費者感情等を考慮して」決まっていることがわかる。
また、昭和50年ごろは米は配給による流通が半分以上、自主流通米は3割行ってなかったんじゃないかな(推察だけど)。そんな時代だから、国の食糧政策は今よりも絶大な力を持っていたことが想像される。

(2) カドミウムによる環境汚染に係る米の処理について

 食糧庁では、昭和50年度に、カドミウムによる環境汚染の要観察地域として厚生省が指定した地域で生産された米及びその他の地域で生産されたカドミウム濃度0.4ppm以上1.0ppm未満の米19,175t49億6989万余円を買い入れ、これを主食用に配給することを保留しており、前年度までに買い入れた分を含めると、配給保留米の在庫総量は82,793t買入れ価額156億7716万余円に上っていて、51年3月までにその保管に要した経費は10億2722万余円、金利相当分は24億6349万余円となっている。

 しかして、同庁では、年々累増する配給保留米の在庫対策として、51年3月までに合板接着剤等の原材料に5,586t(買入れ価額7億7953万余円、売渡価額1億0822万余円、売買損失額6億7130万余円)を売り渡し、51年度以降においては、毎年2万t程度を売り渡す計画を立てて、滞貸に伴う財政負担の軽減を図ることとしているが、毎年の発生量及び売渡し実績等からみて在庫の解消を図るまでには至らない状況である。しかも、その売渡価格は1t当たり19,400円程度であって、買入れ価格1t当たり129,540円から259,186円平均186,208円に比べて著しい開差があり、処分に伴う損失により多額の財政負担を生ずる結果となっている。

 このように配給保留米を多量に保有することとなったのは、カドミウム濃度1.0ppm未満の米については食品衛生法(昭和22年法律第233号)に基づく告示(昭和45年厚生省告示第364号)による食品としての米の成分規格に適合するので買入れを行うこととしているが、一方、前記の要観察地域の米及び0.4ppm以上の米については配給を保留する取扱いをしていることによるものである。すなわち、43年5月、厚生省が神通川流域のイタイイタイ病カドミウムが関連性があるという見解を発表したことから、同地域の米の売渡しを中止せよとの要請が高まり、また、44年9月、同省で「カドミウムによる環境汚染暫定対策要領」により、玄米で0.4ppmを超えている地域について環境汚染の精密調査を進めることとしたことから、0.4ppm以上の米についても配給を忌避する感情が消費者間に強く派生したため、このような消費者感情等を考慮して、要観察地域の米及び0.4ppm以上の米については配給を行わないこととしたことによるものである。その後、食糧庁では消費者の理解を求める努力をするとともに希望者に対する配給等の具体的措置についても検討を行ったが、現在においてもなお消費者の配給を忌避する感情をぬぐい去るに至らず配給を保留せざるを得ない状況にある。

 しかして、要観察地域等に対する農業施策についてみると、農林省では、1.0ppm以上の米が生産される地域又はそのおそれが著しいと認められる地域については農用地の土壌の汚染防止等に関する法律(昭和45年法律第139号)に基づいて、47年度から公害防除特別土地改良事業等で土壌改良を実施することとしているが、配給保留米として扱われる米が生産される地域については、水田総合利用対策により米から他作物への転作指導が進められているにすぎないため、自然条件、生産物の販売面等の制約があって適当な転作物の選定が困難な場合が多いことから配給保留米の生産を抑制するには限界がある状況であり、これらの地域では引き続き配給保留米となる米が生産されることが見込まれる。

 以上のような状況の下では、配給保留米に係る財政負担は今後とも継続され、その額は累増の一途をたどることとなる。

ちなみに、この「消費者感情等を考慮して」という文言は、2011年に玄米および精米のカドミウム濃度基準値が0.4ppmに変更になるまで、(正式な文書ではないけれども)通達レベルには頻出しており、現場ではこのような根拠で規制を実行していたといえる。そう、基準値は感情で決まっていたのである。