Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

牯嶺街少年殺人事件

エドワード・ヤン(楊徳冒)=監督,1991年台湾
ああ,ついに観た…20年以上,ずっとずっと観たかった.んもう,理屈ではない熱気が画面から伝わってきた.魂を持っていかれる,あっという間の4時間(一瞬たりとも退屈しなかった).インパクトが強すぎて現在も腑抜け状態.私は今まで,なんとぼんやり生きてきたことだろうか…などと呟きたくなる心境.こんな映画も久しぶりでございます.
舞台は1960年の台北.生きざまが熱い,大人も少年たちも.何かに追われ,何かを求めて移動し,変わろうとする人々の群像劇である.この設定だけで面白いに決まっている(日本では無理だ).
不条理に翻弄される外省人の大人たち.上海での豊かだった生活を引きずりながら,今を必死に生きている.
そんななか,学生たちも何かをせずにいられない.若いエネルギー,一方でやるせなさと不条理.そんな行き場のない熱がいたるところでぶつかる青春映画,というところか.淡い恋愛模様はひたすら美しい,主人公の少年,小四の純粋さと思春期の揺れる心.主人公の少女,小明は幻想的な美人だけど,考えはひどく現実的.衝撃のラストでは思わず「うわっ」と声に出しちゃったよ…でも,この映画の肝は殺人事件そのものではない.
小四の父は外省人としてのアイデンティティに悩み,激変する時代に取り残される.誠実であることすらも,この現代においては何の価値もないのか?小四の母もつらい現実に声を上げて泣くが,前に進む.父は進めない….男はストイックで不器用,一方で女はしたたかでしなやかである.この設定は,台湾映画に結構共通しているが,胸に迫るんだよなぁ.
中学校の夜間部,夜の襲撃,停電など闇と光の描き方が特に美しいことはよく言われているが,それ以外も観ていて飽きない.台北で,日本人将校が建てた家に住む主人公一家.一方で成金の馬家は,最近建て直したっぽい中華風の玄関を持つ家に住む.こんな違いも面白い.近所の食料品店の親父がまた日本かぶれで,流れてくる音楽が「お富さん」だったか,「♪潮来のい〜たろ〜おぉ」だったか,60年ごろの日本の流行歌なのよ.
小四役のチャン・チェン張震)がもう,カッコよくてカッコよくて,彼のご尊顔を拝むのが観る目的ってのもまたよし.足も長っ!!