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タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

説得の技術としての経済学 政策決定と経済学者

塩澤修平=著,勁草書房
夫の本棚にあったのを拝借.読みやすくてなかなか面白い.
経済学的な知識は全く増えなかったが,意外に面白かった.日本の開国から第二次大戦後にかけて,国の政策として重要な判断や意思決定を求められたとき,国のトップは何をしたかがよく書いてあるからだ.この著者は近代史にお詳しいらしい.
ただ,現代の官僚制に関する部分は悪口ばかりになっているきらいもある.これは読後感は良くなかった(たとえ事実だとしても).
オモシロイと思ったこと:
・武士道の古い枠組みにとらわれて文武農の3本柱から逃れられず,結局維新後にトップに立てなかった西郷隆盛.実際の社会を支える産業として商工業を考えられなかったところに西郷の限界があるという.
・軍事力をいかに増強するかという観点からオペレーションズ・リサーチの分野が発展したこと.米国では規格が統一されていて軍用機の大量生産に向いていたこと.
・縦割り行政の弊害は第二次大戦前からあって,陸軍と海軍で情報交換が全くなされておらず,同じような研究をして同じような戦闘機を作っていて無駄だった.
・そして,第二次大戦に負けたことで国民がショック状態にあるとき,極めて集中的な国家戦略が取られた(1946年12月,傾斜配分方式の閣議決定).今だったら,集中投資の範囲外とされた産業が大きな抵抗勢力となり,結局総花的な案となり,日本経済の停滞は長く続いたであろう.
・現在の日本で,規制緩和がなぜうまく行かないか.それは,「生存のための基本的な財を利潤追求の株式会社には任せられないというゼロサム社会の発想」があるからだそうだ.ここでいうゼロサム社会は,江戸時代のイメージ.上で書いた西郷隆盛の発想から未だに抜け切れていないためだそうな.知恵を絞れば,ゼロサムではなく,共存共栄の社会が実現するということか.
具体的な処方箋には乏しいが歴史をまとめた部分は大いに納得したのでありました.(110807読了)