Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

銀座化粧

成瀬巳喜男=監督、1951年日本(新東宝
田中絹代香川京子東野英治郎

成瀬巳喜男らしい映画。とにかく女性が美しい。田中絹代の諦めの表情、少女のように一瞬ときめく表情、決して華やかな美人ではないがずっとずっと見ていたくなる。香川京子もびっくりするくらい可愛い。
あらすじ(Wikipediaより)

銀座で女給をしている雪子は5歳になる息子の春雄と暮らしているが、昔の愛人安蔵は今でも金の無心に来る。ある日雪子は昔の仲間静江から上京してきた資産家の息子石川の案内役を頼まれる。相手をしているうちに雪子は石川との結婚を夢見るが、春雄の行方が突然わからなくなってしまい、石川の相手を妹分の京子に頼んで自分は帰宅する。春雄は見つかったがその一夜の間に京子と石川は婚約してしまっていた。あきらめた雪子は今日も銀座で働くのだった。

銀座でバー Bel Amiのママとして働くシングルマザー、雪子(田中絹代)はいつもどこか不幸でお金の話ばっかりしている。
元愛人(今は没落して金がないが以前は上客だった)藤村には金をたかられるし、お客には飲み逃げされるし(しかし雪子が黙って肩代わり、カッコイイ)。パトロンになってくれると思った社長からは理不尽に襲われて、これは現代なら強姦未遂ですよ、と思うが弱い立場にある者は声を上げられない(涙)。
そんな雪子の唯一の希望は一人息子の晴雄。晴雄も母ちゃん大好きで、母子のシーンにはほっこり。晴雄はお母さんが夜の仕事に出ても、寂しがらずに一人で布団を敷いて寝る(涙)。雪子と晴雄は長唄教室の2階に間借りしている(建物の構造は芸者置屋成瀬巳喜男のお得意の舞台)。ここにはお稽古の芸者、一般男性他、様々な人が出入りしていて人間模様がうかがえる。

戦後5年かそこらの銀座の夜がこんなに栄えているのも驚き。その裏には無数の人生がひしめき合っている。雪子が自分に言い聞かせるように言う、夜空で明るく見える1等星はほんの一部、大半は見えるか見えないかくらいの明るさの星なのだと。雪子は、後輩の京子(香川京子)を、「この子は見込みあるから」と一心に教育してきた。にも関わらず、その京子に「いい人」取られちゃうしなぁ(涙)。
こんな風に雪子は幸せを逃し続け、でも愚痴もいわず(煙草をふかし)、明日もバーで働くのだ。強い。

銀座の高級バーといっても、親を亡くした子供たちがせんべいを売りに来たり、小学校低学年くらいの女の子がバイオリンを伴奏に流しで歌ったりしているのは時代を感じさせる。流行語は「とんでもハップン」。
東京温泉がまだ建設中。東京温泉のことはこの映画で初めて知ったが、「トルコ風呂」、、、こんな表通りに明け透けな歓楽街がある。当時の東京の鷹揚さよ。