内田樹=著,文春文庫
内田さんの本は難しい言葉が出てくるので,辞書を引き引き読んでいる.例えば「冠絶(かんぜつ)」(=比較するものがないほどに優れていること.)とか.こういう言葉を書くんですよ内田先生は.そして,本にする時は声に出して推敲しておられるというから,この語彙が体に馴染む生活をしていることだが,それもすごい(いや,書いた瞬間は辞書を引いたのかもしれないけど).難しい言葉が使えるということをひけらかしたいというわけではなく,「この場面にはこの言葉が一番しっくり来るから」という理由で使われているのを見てとれるので,気持ちがいい(最近こういう文章をとんと読まなくなったので,心して触れていきたいと思うところ).
第二次大戦に関する知識も生半可じゃなくて,やはりものを述べたり書いたりしておられる方は戦史が専門じゃなくてもご存知なのだなあ.ノモンハンは満州とモンゴルの国境の町で「先の戦争で最も悲惨な戦闘であった」という.私はこの地名しか聞いたことがなかったので改めて調べてみたり.
女性が本質的に「国境を持たない」存在であり,彼女たちの怜悧で非情な観察を読んでいると,「日本人なんか別にいなくてもいいか……」という気分になってしまうからである.
たしかにそれでもいいんだけど.(「日本人の社会と心理を知るための古典二○冊」,p.109)
とか,シビれるわ.