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タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

さらば厚労省 

村重直子=著,講談社
ワクチン接種の光と影ネタ(とくに小児の)をウォッチしていて偶然見つけた本.「村重直子の目」からのリンクで知った.医系技官の悪い習慣(国内医薬品メーカーの過剰保護につながる、logical, reasonable, transparentでない意志決定)は何とかしないといけない、と私も思わされた.オススメ!
文章自体は「よく書いたなあ」という感想で。面白み(=笑いどころ,胸打つところ)は多くないし,基本的には医系技官に対する不満を述べているだけともいえ,ところどころ脇の甘い記述もある.たとえば,医師数が病床数あたり米国の1/17であり圧倒的に足りないといいつつも医師を増やす予算については言及がない.医系技官を全員首にしてもとうてい足りないだろう。医師数1/17というのも、日本と米国では病床数が違う、個室でなく大部屋が多い日本の病床数の多さが反映しているからなのでは?と突っ込んでみたり。
しかしながら,この若さで,こんなにいろんな経験をして、激務の中よくこんな本を書く時間をとったなあ、という感嘆の気持ちでいっぱい。村重さん、尊敬します。これからの著書にも大いに期待します!
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医療現場は生死に即関わるから,我々の化学物質のリスク管理とは比べ物にならないほど緊張感がある.そういう医療現場の構造を我々のいうリスク管理にも当てはめてみる,というのはまったくもっておこがましいのだが,非常に参考になったのでいくつかメモ.
・無過失補償・免責保障制度を導入,訴訟リスクに備えよう!現状は後で副作用等でとやかく言われるのが嫌だから,ワクチンを認可しないという方向.その結果もっと重大な損失(重症患者が死亡→全体として死亡者が増大)が生じている.
(これは環境リスクでも同じ!BSEでも!規制や環境基準を過度に厳しくすることで無駄なコストがかかっている)
・全国一律の基準適用が原則で現場の医師の判断がないがしろにされる
(地域差を考慮した環境基準設定(とくに生態リスク管理)に踏み切れない!)
・官僚が仕切る補助金配布
(かつての環境ホルモン研究ではこうだったかも?)
新型インフルエンザに学ぶ,情報が少ないときの対処方法
(新規技術のリスクでも同じ.)
・医療キャパシティという考え方を一般にも浸透させること(妻夫木君の映画「感染列島」でトリアージ勉強しろ)。「症状を自覚した場合は早めに受診しましょう」が,いかに医療現場を窮地に陥れるか。
・医療ガバナンス学会、という(謎の)名前の学会があるのが驚き。