Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

豪雪地帯はつらいよ?

山梨県ほかの集中豪雪被害で,様々なことを考えた.災害救助が遅れたのは,除雪のための設備がなかったからだとすれば,除雪設備は,どのような基準で設置されているのだろうか.これはすなわち豪雪地帯の定義を調べることにほかならない.

国は「豪雪地帯」「特別豪雪地帯」を定義していて,それらの地域には豪雪地帯対策特別措置法(通称・豪雪法)による特別な手当てをすること,と決まっている.その一環で除雪機を揃え,除雪ステーションという雪捨て場+除雪機のための倉庫を整備し,冬季に除雪人員を確保すること(役所用語でいうところの「年間契約」ということになるだろうか)などが決まっているようなのである.
豪雪法は昭和37年4月5日に施行されている.かの有名な昭和38年の豪雪,通称サンパチ豪雪の後かと思ったら,その前の36豪雪(昭和36年)が契機であった(http://www2.ceri.go.jp/jpn/pdf2/k-gt-200304-gousetsu.pdf).
所轄官庁は,経企庁→国土庁→2001年1月6日より国土交通省総務省農林水産省の3省共管.

こちらの資料が包括的か.予算規模とかもまとまっている.
「豪雪地帯対策について」国土交通省国土政策局 平成23年度.
さて,本法の第一条:目的は「雪害防除と地域振興のため」とある.地域振興も入るあたりがなんとも涙ぐましいところである.このロジックと制定時期に何となくピンときて,調べてみたらやはりこの豪雪法は田中角栄議員立法により制定されたものだった.歴史は,新潟県の文書に詳しい.http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/247/228/b1.pdf

で,本題の豪雪地帯の線引きについてであるが,それは「累年平均積雪積算値」によって行われる.ちょっと長いけど,法第二条を引用.

第二条  国土交通大臣総務大臣及び農林水産大臣は、前条に規定する地域について、積雪の度その他の事情を勘案して政令で定める基準に従い、かつ、国土審議会の意見を聴いて、道府県の区域の全部又は一部を豪雪地帯として指定する。
2  国土交通大臣総務大臣及び農林水産大臣は、前項の豪雪地帯のうち、積雪の度が特に高く、かつ、積雪により長期間自動車の交通が途絶する等により住民の生活に著しい支障を生ずる地域について、国土審議会の議決を経て国土交通大臣総務大臣及び農林水産大臣が定める基準に従つて、豪雪地帯として指定された道府県の区域の一部を特別豪雪地帯として指定する。
 豪雪地帯対策特別措置法第二条第一項 の指定は、国土交通省令総務省令・農林水産省令で定める期間における累年平均積雪積算値が五千センチメートル日以上の地域(以下「豪雪地域」という。)の存する道府県又は市町村で次の各号のいずれかに該当するものの区域について行うものとする。

一  その区域の三分の二以上が豪雪地域である道府県又は市町村
二  (以下略)

累年平均積雪積算値とはなにか.これも面白くて「積雪」の「積算値」っていう,2回も積分をしたような量である.さすが雪国をよく知る田中角栄,と思わせる.積雪量と降雪量は違う.積雪量は降雪量(フロー)に加えて(これまでに降ったものが)溶けずに残る量(ストック)も足したもの,ということになる.要は,その辺に積もっている雪の量を毎日毎日測定して,一冬分を足しあわせた量,ということになる.たとえば,100センチメートルの積雪が50日あれば、積雪積算値が5000センチメートル・日,となる.そりゃー,根雪のある地域は余裕で5000cm行くわ〜.
豪雪地帯か特別豪雪地帯かによって国の補助も異なるため,随時見直しが行われていて,地域の代表的な観測点で積雪量を測定して国に報告,しているということを聞いたことがある(近所で測定していて,あれは何を測ってるの?と聞いた時教えてもらった).
そして,特別豪雪地帯の認定基準は累年平均積雪積算値は20000センチメートル・日とか!(まぁ,山形の置賜地方に住んでいるとこの数字は分かるなあ.雪が2m超の日が3ヶ月ちょっとあればよいのだから.)
(一号要件には最大,最小の累年平均積雪積算値で決める,とある)←後で調べる
国土交通省令総務省令・農林水産省令で定める期間」って?←後で調べる
雪が少なくなったりして,地域指定から外されたり,逆に指定されたりするプロセスについては,どうなっているんだろう?←後で調べる

豪雪法に関連する政令には,どの道路の除雪を優先するかを交通量をもとに決めたりとか,非常に面白いことがたくさん書いてある.除雪作業にかかる費用について,国庫金の負担割合も決まっているのは当然として,税制優遇や,国家公務員の給与の寒冷地補正もこの特措法と絡んでいる,細かいところでは「雪下ろしの人夫費は税制優遇の対象」「軽自動車税も走れない時期は○ヶ月分免除」など,雪国の人も知らないような決め事が満載である.やっぱり角栄っぽいなあ.
豪雪地帯を抱える地域は,この特措法に関連する交付金である程度潤っているようなところがある.だから私は国が貧しくなったらこのへんが切られるんじゃないかと密かに懸念してもいる.「雪のたくさん降るような,雪下ろしが必要な地域には金輪際住むな.住んでも補助金出さないぞ」という論調が今後強くなっていくのだろうか….山形には,冬の除雪の日当を当てにして暮らしている人がたくさんいるから難しい.
また,通常雪が少ない地域のゲリラ豪雪は,こういう地域指定では間に合わなくて,本気で見直しが必要なんじゃないかと思ったりしている.

以下おまけ.

豪雪地帯対策特別措置法
(昭和三十七年四月五日法律第七十三号)
最終改正:平成二四年三月三一日法律第八号
(目的)
第一条  この法律は、積雪が特にはなはだしいため、産業の発展が停滞的で、かつ、住民の生活水準の向上が阻害されている地域について、雪害の防除その他産業等の基礎条件の改善に関する総合的な対策を樹立し、その実施を推進することにより、当該地域における産業の振興と民生の安定向上に寄与することを目的とする。
(以下略.)