Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

家族を想うとき

ケン・ローチ=監督、2019年イギリス、フランス、ベルギー合作
クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター
ケン・ローチ、ワタクシ史上3作目。ずっと観たかったがようやっと鑑賞。
原題は「Sorry we miss you」、宅配便不在票の定型文とのこと。典型的なdouble meaningだよね。

なぜか「I, Daniel Blake」よりは悲壮感が少なかった。

現代が抱えるさまざまな労働問題に直面しながら、力強く生きるある家族の姿が描かれる。イギリス、ニューカッスルに暮らすターナー家。フランチャイズの宅配ドライバーとして独立した父のリッキーは、過酷な現場で時間に追われながらも念願であるマイホーム購入の夢をかなえるため懸命に働いている。そんな夫をサポートする妻のアビーもまた、パートタイムの介護福祉士として時間外まで1日中働いていた。家族の幸せのためを思っての仕事が、いつしか家族が一緒に顔を合わせる時間を奪い、高校生のセブと小学生のライザ・ジェーンは寂しさを募らせてゆく。そんな中、リッキーがある事件に巻き込まれてしまう。(映画.comの解説より)

高校生の息子セブの躍動感が良かったのか。反抗期あるあるで、トリュフォー大人は判ってくれない)より全然マシな感じはした。校則違反と知りつつ壁にスプレーで落書き。気になっていた彼女が転校するので、バス停まで見送りのシーンなど、貧困が少しマイルドに書かれていたこともあるのか。
小学生の娘ライザがお父さんのトラックの助手席に乗って配送へ。ライザが機転が利く子で、流石だなーとか、「これでお菓子でも買いなさい」とチップをくれる配送先のおばあちゃんとか、ペーパー・ムーンみたいだったし。でも賢いライザは、お父さんお母さんの苦境を感じて自分がしっかりしなきゃ、という気持ちが強すぎて、おねしょしちゃう。わかる。
妻のアビーは介護スタッフ。利用者さんとときおり交わされる温かな思い出話のシーンで、なぜか涙が止まらなかった(ケン・ローチは、こういうシーンの挿入の技に本当に長けている)。
主人公のトラック運転手、リッキーは「個人事業主」との名の下、仕事がどんどんきつくなっていく。辛い。
少しずつ良くなるから、明日は良くなるからと信じて耐えるのだが、益々悪くなるという構図。辛い。ギャンブルで負けが混んでくる感じ、自分は悪くないのに。ちょっと前までは正社員で将来に希望が持てたのに。成長のために正しくリスクを取って生きているのに、それが全て裏目に出るのは辛い。
人間追い詰められると、愛している家族に思わず手を上げてしまう、それが何より辛かった。ただただ辛かった。
主人公のトラックが襲撃され、病院で手当中に、配送会社の雇い主から「休んだらペナルティだぞ」と血も涙もない電話がかかってきたシーン。付き添っていた妻のアビーが精一杯の罵り言葉を駆使して雇い主に抗議をする(このシーンは超必見)。それでも主人公は傷が治らないまま、家族を食べさせるために、配送会社に仕事に行くのだった。
希望はないが、観て本当に良かった。日本でも多くの人が観てほしい。Amazonの倉庫で働いている人とか、UberEatsの人とか、どうしているんだろう。