Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

流星ひとつ

沢木耕太郎=著,新潮社

沢木さんのファンなので買ってしまった.彼の20世紀の著作をコンプリートした者として買ってしまった,私にも矜持があるわよってな感じで.本屋で立ち読みして止められなくなったので買ってしまった,というのは内緒だが.
全文がインタビューの会話,つまり「」書きで構成されている.これが最初に書かれた1979年でも現在でも,えらく斬新だ.
誤解を恐れずに言えば,沢木さんにとってはこの構成は,マイナスだったんじゃないだろうか.というのは,藤圭子の圧倒的な強さ潔さを明確に押し出す構成だからだ.読んでいて正直,沢木さんの未熟さというか何者でもない感じが非常に痛い.ヒヨッコ感がすごい(彼はこの世界-ライターの世界-に入って10年経ってない.それにしてはものすごい才能ある人だと思うけど).
要は,藤圭子が…すごすぎるんだよ.こんな強烈な人間もいるんだなあ.私は演歌には興味がなく,藤圭子の現役時代どころかこの本を読んで初めてWEBで検索して彼女の顔を知ったくらいだ.そんな予備知識のない人間も,彼女の生き様には感服,というか読んでいて魂を抜かれそうな,そんな感じだった.
沢木さんの才能が遺憾なく発揮されているという意味なら「檀」(檀一雄の妻,檀ヨソ子の独白を小説風ドキュメンタリーにしたもの)のほうが何倍も面白いんだけど,沢木さんがうまく引き立て役になっているという本書も,いろんな意味で泣けるわ.
パリで,藤圭子と沢木さんが偶然に交錯したくだりは面白かったなあ!