三浦しをん=著,光文社
久しぶりに穏やかな読書.
主人公の馬締さんのように,立ち止まり,考え,穏やかに生きられるのは素敵ね.私に似合うか,できるかはまた別の話だけれども.
テーマのアナログ感が好きな人には何より堪らない内容だろう.まずこの本,装幀が楽しめる.銀の箔押しですよ!これは主人公たちが編纂している辞書の装幀だが,広辞苑でも同じだなあと思ってグッときた(広辞苑は地の色が濃紺ではなく,もう少し鮮やかな水色がかった青だっと記憶している).
そうねぇ,率直な感想としてはエピソード一つひとつがこじんまりしてて,尻切れトンボ風でもあり,続きが気になるというか,「読んだぜ〜」っていう重厚な感じはない.そこは好き嫌い別れる点かもしれない.時間軸のぶっ飛び方があまり自然じゃなくて違和感も感じたり.
辞書編纂がテーマだから語義の話がたくさん出てくる.「右」をどう説明するかのエピソードは面白かった.
そして自分は言葉をいかにおざなり(なおざり?)にしているか改めて考えて反省した.今だって「なおざり」と「おざなり」を調べずに書き進んでいるし….共有ツールとしての,理解しあうための言葉をもっと大切にしなくては.手書きでなくてタイプするようになってから,心に響く言葉が少なくなったなあ,とは思っていたのだけれど.
そして,文字を手で書くことを大切にしたいなと思った.校正のシーンは,私も書籍の校正をやったことがあり,ひたすら手書きしまくってたことを思い出した.赤ボールペンがホントに1本インクなくなったのにはちょっと感動した.大学学部くらいまでは文字は手で書くしかなかったのに,最近はタイプタイプで文字の洪水,情報の洪水.それと共に言葉を大切にしなくなっているんだと思う.
一番最近の手書きといえば,高校時代からの友人に書いた手紙かな.祖母への香典を送ってくれた,そのお礼の手紙.葉書一枚に溢れる思いを書いた.その友人とはメールでもつながっているけれど,昔から手紙でやり取りが普通だったので,手書きが自然で「らしい」.
その前は,仕事でもプライベートでも付き合いがある友人に書いた手紙だった.差し上げた書物に添えたメッセージ.普段はメールでのやり取りが主だから私の筆跡がバレるのは少々恥ずかしかったけど,心をこめて書いた.それと,離れて暮らす長女に切符を送った時のメッセージもあったな.一筆箋にメモとして書いたのでごく手短に.しかしこちらも,愛する娘のことを思って心をこめて書いた.
手書きのゆったりとしたスピードの中で,言葉を丁寧に紡ぐ生活は,理想なんだけどねぇ.