Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

スウィングガールズ

大好きな矢口史靖作品.一番好きなのは,実は「アドレナリンドライブ」だけどね.

・XX学会誌 2006年11月号

スウィングガールズ
監督:矢口史靖、2004年製作、日本作品

舞台は東北の片田舎、元気な女子高校生たちが主人公です。夏休み、吹奏楽部員に弁当を届けた補習組の友子(上野樹里)たち。補習をサボるよい口実と、喜びいさんで出かけたのですが、その弁当を食べた部員が食中毒でダウン。ピンチヒッターとして、楽器も触ったことがない友子らが猛特訓し、何とか即席ブラスバンドで野球の応援をこなします。それがきっかけでジャズにとりこになり、ビッグバンドを結成してコンクールにも出てしまいます。突拍子もない展開ではありますが、熱く短い青春を爽やかに描いた素敵な小品です。実際に俳優たちが楽器を練習して、演奏シーンは吹き替えなしでトライしているのにも驚かされます。

この作品、東北は山形県でロケをしています。一面緑の夏に対し、真っ白な冬、というコントラストがとても美しく切り取られています。河川敷でランニングしたりトランペットを練習したり、校庭で雪合戦したり。なお、道路のシーンでは、積雪の影響を少なくするため信号が縦に並んでいたり、冬季でも道路の端が分かるように1mくらいのポールが立っていたり、消雪パイプがあったりと、積雪のない地方のかたには見慣れないインフラがありますので、よく見てみてください。

本稿では、この映画の陰の主役、山形鉄道フラワー長井線に注目しましょう。東北の四季をバックに、高校生たちの足として活躍しています。2両編成と小兵ではありますが、カラフルに塗られた車体で広々とした田園風景の中を気持ちよさそうに走ります。高校生たちの思いに寄り添い、風を切って走る、この映画のイメージにぴったりですね。なお「電車」ではありません、ディーゼル車です。地元の人は「汽車」と言う人もいるとか。そして、言うまでもなく単線です。フラワー長井線は旧国鉄長井線でしたが、国鉄の分割民営化時に第三セクター化されました。山形県南陽市赤湯駅から白鷹町荒砥駅まで、30.5 kmを毎日12往復しています。現在も赤字と戦いながらではありますが沿線住民の支援も大きく、地域に愛される鉄道となっているそうです。

筆者はこの夏、長井線に乗るチャンスに恵まれました。映画の通り、とても美しい光景でした。まっすぐに続く線路、さえぎるものは何もなく、まさに日本の夏を実感しました。乗り過ごしてしまったら次の列車が来るまで間があるので、友子たちのように線路の上を歩いて戻ってしまいそうになりますが、マネをしてはいけませんよ!そして、車内は燃料のにおいがして、どこか懐かしいのです。その日は部活帰りの高校生たちで座席は8割方埋まっており、飛び交う山形弁のにぎやかなこと。旅行気分も盛り上がります。実際、主な利用者は高校生とのことですので、廃止されてしまったら通学に支障がでてしまいますね。また、病院に通うと思われるお年寄りの姿もちらほらありました。しかし、自家用車の利便性には負けてしまうのか、20代から40代の利用者は少ないようです。駅に集会所やギャラリーを併設したり、車内でインターネットが使えるようにしたり、アイディア勝負で地元の方々は頑張っています。

ちなみに、映画では吹雪で列車が立ち往生してしまいますが、実際は真冬でもほとんど定時運行されており、この地域ではむしろ自動車の方が吹雪の中に閉じ込められてしまうということです。こういうとき公共交通のありがたみを感じます。大切に守っていきたいですね、長井線