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タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

妊婦と温泉

根拠を尋ねようキャンペーンの一環.このたび温泉法が改正になったことの背景をメモ
日経の記事は無料なので全文を貼り付けする.手抜きご容赦↓

妊婦の温泉入浴問題なし 環境省が基準見直し
2014/1/24 日本経済新聞
 環境省は24日、温泉の成分や入浴上の注意を定めた温泉法の基準を32年ぶりに見直し、入浴を避けるべき「禁忌症」の中から「妊娠中」を削除する方針を決めた。妊婦が温泉に入っても医学的に問題ないとされ、専門家から見直しを求める声が上がっていた。一般からの意見公募を経て今年夏までに各都道府県に通知する。

 1982年に定められた現行基準は、禁忌症として重い心臓病などとともに「妊娠中(特に初期と末期)」を挙げている。妊娠が禁忌症とされた理由について、環境省は「記録が残っておらず定かではないが、外国の文献や俗説を参考にした可能性がある」と説明。見直しにより妊婦も安心して温泉を楽しむことができそうだ。

 温泉法は、脱衣所などの見えやすいところに温泉の成分や禁忌症などの注意事項を表示することを義務付けている。

日本温泉気候物理医学会環境省が調査を委託したとのことだが,他の新聞(朝日)では,もっと率直に「よく調べたが、なぜ書かれているか分からなかった」と書いてあった.北海道新聞 (2014/02/12)が詳しくて優秀な記述だ↓.

温泉の禁忌症、適応症 見直しなぜ? 科学的根拠の乏しさ背景
(前略)「禁忌症や適応症が本当に正しいのか、疑問はあった」と日本温泉気候物理医学会理事長の大塚吉則・北大大学院教授(58)=温泉療法専門医=はいう。環境省の依頼で学会は2005年度から8年かけて過去の研究論文などを調査。これを基に見直し案が作られた。
(中略)
日本には「問題ない」とする研究があり、見直しの決め手となった。
 その研究は次のような内容だ。岐阜県下呂温泉病院の研究班が、同病院で出産した女性約千人に行った妊娠中の入浴アンケートを分析した。毎日の入浴が《1》温泉(単純温泉下呂温泉)《2》入浴剤入り《3》真湯《4》シャワー―の人の四つのグループで比べた結果、切迫流産や切迫早産、早産の起きる割合や出生体重に差がなかった。

専門家からのもう少し詳しい説明は日産婦医会報(平成22年2月号)あたりか↓.太字にしたところなど,人間臭くて面白いな〜.面倒なことを回避するために,あまり良く考えずに法律や指針にしちゃうっていうのも,案外良くあることなのかもね.

(前略)(妊婦で温泉に入ることはOKかという質問が出てくることに対して,その理由は)日本の温泉に関する法令の中で、温泉の禁忌症に妊娠(初期と後期)が挙げられているからです。法令の一部を下記に抜粋してみます。

温泉法第十八条(温泉の成分等の掲示) 温泉を公共の浴用又は飲用に供する者は、施設内の見やすい場所に、環境省令で定めるところにより、次に掲げる事項を掲示しなければならない。1.温泉の成分、2.禁忌症、3.入浴又は飲用上の注意、4.前三号に掲げるもののほか、入浴又は飲用上必要な情報として環境省令で定めるもの。

•温泉の一般的禁忌症(浴用) 環境庁自然保護局長通知(昭和57年環自施第227号)急性疾患(特に熱のある場合)、活動性の結核、悪性腫瘍、重い心臓病、呼吸不全、腎不全、出血性疾患、高度の貧血、その他一般に病勢進行中の疾患、妊娠中(特に初期と末期)

 さて、お気づきになりましたか? “温泉の一般的禁忌症”として挙げられているものは、一般にお風呂に入る時に注意を要する病気の状態です。温泉だからだめですよ、というものではありません。妊娠を除いては、生活をする上でも困難があるものばかりで、温泉とは無関係なことが分かります。なぜ妊娠中(特に初期と末期)が含まれているのか、現在の温泉療法の学会(日本温泉気候物理医学会)でもその根拠については???でした。ただ、妊娠初期と後期では流産や出血や破水が起きやすかったり、脳貧血を起こしやすかったりするので、不特定多数を対象として温泉浴を提供する施設にとって面倒なものとして、他の病気と同列に挙げられているのであろうと想像しています。

温泉の泉質についても、日本にある放射能泉を含めたすべての泉質において、温泉浴そのものが妊娠に悪影響を与えることは考えられませんし、その根拠もありません。温泉の禁忌症と効能については、現在の法令で定められているものは、根拠が希薄なものがかなり含まれていますので、日本温泉気候物理医学会では、根拠に基づいたものへと改変するための作業が行われています。(後略)