Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

奇跡

是枝裕和=監督,2011年日本
ユナイテッド・シネマ浦和にて鑑賞.
全てがリアルで,クスクス笑えて,ポロポロ泣ける,私のツボにジャストはまった映画だった.
じつはそれほど期待していなかった.是枝裕和監督の自主的な発案でなく,持ち込み企画ということを聞いていたもので,「もしかしたら是枝さんらしくなくて面白くないかもな〜」と思っていた.まえだまえだの旺志郎君(弟のほう)が可愛いから観たいなー,くらいのノリだったのだけれど.
良かったよ〜,特にお兄ちゃんの前田航基くん!!この時期の子どもはあたりまえだけど成長する.そのベクトルを画面から感じただけで泣けてしまう.少年が大人になる微妙な空気感がきちんとフィルムに写し取られていて,やっぱり是枝監督だった.上手い.
「家族より世界を選んでしもたわ」
こうさらりと言ってのける12歳の少年に男気を感じなくてなんでありましょうか.
そういう視点で見ると,弟の旺志郎くんはまだまだ可愛い〜〜〜.大人への一歩が踏み出せてません,そしてそれでもいいのですよ.もう少しそのままでいてほしい.
でも,男の子って本当に母親に優しいんだなぁ.自分も,すっかり母親目線でしか観られなくなってる.うちの長男はどんな少年になるんだろうか・・・
***
取り巻く大人たちの面白いこと,リアルなこと.まず,鹿児島ばあちゃん(樹木希林).いっつもフラダンスの練習してる.台詞は少ないが爆笑させられた.鹿児島じいちゃん(橋爪功)は菓子職人だった時代の栄光(かるかん!)にこだわってるし.父親(オダギリジョー)は下の子(前田旺志郎)と福岡で暮らしてる.工事作業(おそらくバイトなのだろう)で稼ぎながらバンド活動しているが,これでもか!ってくらい情けなくて(でもカッコいいの,そしてホントにいそうなの).そして母親(大塚寧々)・・・・.上の子連れて実家のある鹿児島に帰ってきたんだけど,福岡にいる下の子と電話で話して,あまりの屈託の無さに言葉に詰まるところがリアリティーありすぎ(このシーンで泣けて泣けてしょうがなかった).みんなどこか思い通りに行かないものを抱えてて,まさに
「意味分からんわ」
なんだけど・・・・そしてそれはドラスティックに変わったりしないんだけど・・・・それが日常というものなのだなあと.
***
オールロケ,光の具合がいつも絶妙なカメラ.さすがです,是枝監督.
旅心も掻き立てられる.熊本の川尻という駅で落ち合う兄弟.子どもたちの冒険旅行は日本版「スタンド・バイ・ミー」というよりむしろ岩井俊二の「打ち上げ花火 上から見るか横から見るか」に雰囲気は近い,ま,ダルダルってことね.でも在来線に乗って新幹線を見に行くというその質素感が小学生だし,どこに泊まって何を食べるかも楽しかった.
九州新幹線全線開業を機に,新青森から鹿児島中央まで新幹線で移動してみたいという気持ちにもなったけど,実は新幹線って車窓は案外つまんないんだよね.やっぱ在来線がいいな.
おまけトピック:鹿児島があんなに灰の降る町だとは思わなかった.あれは誇張でないと思う.